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神戸地方裁判所尼崎支部 昭和36年(ワ)73号 判決 1964年5月15日

主文

原告の被告等に対する請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、被告山下珠美(以下被告山下という)は原告に対し別紙目録(一)記載の宅地(以下本件宅地という)につき経由されている同目録(二)記載の抵当権移転登記(以下本件(二)の抵当権移転登記という)並びに同目録(三)記載の仮登記移転登記(以下本件(三)の仮登記移転登記という)、同目録(四)記載の建物(以下本件建物という)につき経由されている同目録(五)記載の抵当権移転登記(以下本件(五)の抵当権移転登記という)並びに同目録(六)記載の仮登記移転登記(以下本件(六)の仮登記移転登記という)の各抹消登記手続をせよ、被告株式会社大阪相互銀行(以下被告銀行という)は原告に対し本件宅地につき経由されている別紙目録(七)記載の抵当権設定登記(以下本件(七)の抵当権設定登記という)並びに同目録(八)記載の所有権移転請求権保全仮登記(以下本件(八)の保全仮登記という)、本件建物につき経由されている同目録(九)記載の抵当権設定登記(以下本件(九)の抵当権設定登記という)並びに同目録(十)記載の所有権移転請求権保全仮登記(以下本件(十)の保全仮登記という)の各抹消登記手続をせよ、訴訟費用は被告等の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、要約して、大要、次のように述べた。

(一)  訴外橋本義一(以下橋本という)は昭和三十五年十月四日被告銀行とのあいだに、同三十五年六月二十一日附相互掛金弁済契約にもとづく貸金債務金七十二万七千二百円をいわゆる被担保債権として、これが支払担保のため、その所有にかかる本件宅地並びに本件建物等につき抵当権を設定すると共に、代物弁済の予約を取結び、なお、これに伴い、前同日、被告銀行を権利者として、本件宅地については本件(七)の抵当権設定登記並びに本件(八)の保全仮登記、本件建物については本件(九)の抵当権設定登記並びに本件(十)の保全仮登記が、それぞれ、経由されたのであつた。

(二)  しかして、その後、原告は昭和三十六年一月二十三日橋本から、本件宅地並びに本件建物を、前叙の抵当権等附着のまま、代金四十二万二千七百円でもつて買受け、直ちに、その旨の所有権移転登記を経由したのであつた。

(三)  しかるところ、更に、その後、橋本の被告銀行に対する前叙の貸金債務につき連帯保証人となつていた被告山下の先代山下実(以下山下という)は、右に述べたように原告が橋本から、本件宅地並びに本件建物を買受けたことを知り、その事実に便乗して、実質的に、自分の負担する保証債務の支払を原告に転稼し、自らは厘毛の損害を蒙らない結果を招来することを策し、昭和三十六年一月三十日連帯保証人として被告銀行に対し、前叙の貸金債務全額につき弁済を完了し、その結果として、山下を権利者として、同三十六年一月三十一日本件宅地については本件(二)の抵当権移転登記並びに本件(三)の仮登記移転登記、本件建物については本件(五)の抵当権移転登記並びに本件(六)の仮登記移転登記が、それぞれ、経由されたのであつた。

(四)  しかして、なお、山下は本訴係属中の昭和三十六年七月二十一日死亡し、養女である被告が相続によりその権利義務を承継したものである。

(五)  本件における基礎的事実関係は、略々、右に述べたとおりであるが、原告としては、更に、若干の事実を、補足したうえ、次のような法律上の主張をするものである。すなわち、

(い)  本件宅地並びに本件建物につき原告のため経由されている所有権移転登記と山下のため経由されている各抵当権移転登記並びに各仮登記移転登記とでは、山下のためのものが後順位の時機になされたものであることは、その日時の関係からして、もとより、論議の余地がないわけである。

(ろ)  しかるところ、元来、代位弁済による附記については、不動産の第三取得者が、未だ、その旨の所有権取得登記を経由しない以前に予め登記手続を完了すべきことを必要とするものであつて、これと反対に、第三取得者において、保証人が附記の登記手続を完了する以前に、その旨の所有権取得登記を経由した場合には、民法第五百一条但書第一号、更には、第五号の法意が、第三取得者は予め保証人の代位あるべきことを知らないのが通常であるから、その者のため不測の損害を蒙ることのないよう保護せんとする顧慮より出たものであることを考慮に入れるときは、代位弁済をした保証人は、最早、かかる附記の登記を経由し得ないものであり、なお、この事柄は、債権者が抵当権を有していた場合でも、代物弁済の予約上の権利を有していた場合であつても同様であると解せられるところである。

(は)  以上のしだいであるが、これを要するに、山下を権利者として、本件宅地につき経由された本件(二)の抵当権移転登記並びに本件(三)の仮登記移転登記、本件建物につき経由された本件(五)の抵当権移転登記並びに本件(六)の仮登記移転登記は、いずれも、原告が本件宅地並びに本件建物を買受け、その旨の所有権移転登記を完了した後に経由されたものであるから、民法第五百一条但書第一号、更には、第五号にいわゆる先の登記にその代位を附記した場合に該当しない違法のものであつて、当然に、抹消の運命にあり、したがつて、山下としては第三取得者である原告に対する関係では、被告銀行に代位しない筋合のもので、なお、補足すれば、山下としては、同法第四百五十九条の法意にしたがい、主たる債務者である橋本に対し求償権を有するのみなのである。

(に)  又、山下が昭和三十六年一月三十日連帯保証人として被告銀行に対し、前叙の貸金債務全額につき弁済を完了した結果として、そのいわゆる被担保債権、更には、これが支払担保のため被告銀行が橋本から設定を受けていた抵当権、或は、代物弁済の予約上の権利は、すべて、同時に、消滅に帰し、したがつて、被告銀行のため本件宅地につき経由されている本件(七)の抵当権設定登記並びに本件(八)の保全仮登記、本件建物につき経由されている本件(九)の抵当権設定登記並びに本件(十)の保全仮登記は、もとより、抹消せらるべきものであり、なお、実体上消滅した被担保債権、更には、これに伴う抵当権等が、その後、他に有効に移転されるべき道理がないことよりすれば、同三十六年一月三十一日に至り、代位弁済を原因とする移転という形式により、山下を権利者として、本件宅地並びに本件建物につき経由された前叙の各登記は、この見地からしても亦、当然に、抹消の運命にあるものである。

(六)  よつて、原告は、ここに、山下の承継人である被告山下に対しては、本件宅地につき経由されている本件(二)の抵当権移転登記並びに本件(三)の仮登記移転登記、本件建物につき経由されている本件(五)の抵当権移転登記並びに本件(六)の仮登記移転登記の各抹消登記手続をすることを、被告銀行に対しては、本件宅地につき経由されている本件(七)の抵当権設定登記並びに本件(八)の保全仮登記、本件建物につき経由されている本件(九)の抵当権設定登記並びに本件(十)の保全仮登記の各抹消登記手続をすることを求めて本訴におよんだものである。

被告山下訴訟代理人は、原告の被告山下に対する請求は棄却するとの判決を求め、答弁として、要約して、大要、次のように述べた。

(一)  原告主張の事実中(一)は認める、(二)のうち、原告が、昭和三十六年一月二十三日橋本から、本件宅地並びに本件建物を、前叙の抵当権等附着のまま買受け、直ちに、その旨の所有権移転登記を経由したことは認める、(三)のうち、山下が橋本の被告銀行に対する前叙の貸金債務につき連帯保証人となつていたこと及び山下が昭和三十六年一月三十日連帯保証人として被告銀行に対し、前叙の貸金債務の弁済を完了し、その結果として、山下を権利者として、同三十六年一月三十一日本件宅地並びに本件建物につき原告主張の各登記が経由されたことは認める、(四)は認める。

(二)(い)  山下は昭和三十六年一月三十日被告銀行に対し、前叙の貸金債務のうち当時の残存額金六十万九千三百九十二円を代位弁済し、その結果として、民法第五百条、五百一条の法意にしたがい、被告銀行が主たる債務者である橋本に対し有していた一切の権利を行うことができ得るに至つたのであつた。

(ろ) かかるしだいであるが、更に、詳説すると、被告銀行が本件宅地並びに本件建物につき有していた代物弁済の予約上の権利をも行うことができ得るに至り、本件宅地については本件(三)の仮登記移転登記、本件建物については本件(六)の仮登記移転登記の経由を受けていた山下は、その後、橋本を相手どり、神戸地方裁判所尼崎支部に、前叙の代物弁済の予約完結権を行使したことを請求の原因として、本件宅地並びに本件建物につき所有権移転本登記手続をすることと、これらの明渡を求める訴を提起し(同庁昭和三六年(ワ)第四六号所有権移転登記手続請求事件)、審理の結果、山下の承継人である被告において、同三十六年十月二十六日勝訴の判決を得、その判決は確定しているのであるから、したがつて、この事柄に、民法第五百一条但書第一号には、保証人は予め先取特権、不動産質権又は抵当権の登記にその代位を附記したるに非ざれば、その先取特権、不動産質権又は抵当権の目的たる不動産の第三取得者に対して債権者に代位せずと規定してあるが、その中に代物弁済の予約上の権利は包含されていないこと、所有権移転請求権保全仮登記とその本登記との間において、目的たる不動産の第三取得者に対し所有権移転がなされた場合にあつては、その後、本登記の経由を受けるに至つたものは、これが所有権取得をその第三取得者に対抗し得るものと解されることが一般であること等も併せ斟酌して推論するならば、山下を権利者として、本件宅地並びに本件建物につき経由された前叙の各仮登記移転登記が、原告のための所有権移転登記手続完了後に経由されたものであるにしても、山下としては原告に対し、その優先的権利を主張し得る立場にあつたのであるから、原告の主張の理由がないものであることは、この見地からして、既に、明白である。

(は)  仮に、しからずとしても、元来、民法第五百一条但書第一号の法意が、第三取得者に対し不測の損害を与えることのないよう保護せんとするにあるにしても、本件の場合のごとく、本件宅地並びに本件建物についての担保物権が名実共に存在する間は、若し、山下からの代位弁済がなかつたならば、これらの所有権を取得した原告としては、被告銀行の手により抵当権等の実行あるべきことを覚悟すべき立場にあつたのであるが故に、その旨の所有権移転登記を経由した以後に手続を完了した附記登記にもとづき山下に代位せられても、不測の損害を蒙ることは有り得ないところであり、したがつて、山下としては、担保物権が現実に存在することを知つていた原告に対し、原告のための所有権移転登記手続完了後に経由された本件宅地並びに本件建物についての前叙の各抵当権移転登記並びに各仮登記移転登記にもとづき被告銀行が有していた一切の権利を行うことができたことは、もとより、当然の筋合である。

(三)  よつて、原告の被告山下に対する請求は失当として棄却せらるべきものである。被告銀行訴訟代理人は、原告の被告銀行に対する請求は棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、要約して、大要、次のように述べた。

(一)  原告主張の事実中(一)は認める、(二)のうち、本件宅地並びに本件建物につき、橋本から原告を権利者として所有権移転登記が経由されていることは認めるが、その余は不知、(三)のうち、山下が橋本の被告銀行に対する前叙の貸金債務につき連帯保証人となつていたこと及び山下が昭和三十六年一月三十日連帯保証人として被告銀行に対し、前叙の貸金債務の弁済を完了し、その結果として、山下を権利者として、同三十六年一月三十一日本件宅地並びに本件建物につき原告主張の各登記が経由されたことは認めるが、その余は不知。

(二)(い)  仮登記をもつて保全された代物弁済の予約上の権利も、民法第五百条、第五百一条本文の法意にしたがい、代位弁済者においていわゆる法定代位するわけであるけれども、同法第五百一条第一号には、保証人は予め先取特権、不動産質権又は抵当権の登記にその代位を附記したるに非ざれば、その先取特権、不動産質権又は抵当権の目的たる不動産の第三取得者に対して債権者に代位せずと規定してあるが、その中に代物弁済の予約上の権利は包含されていないことからすれば、かかる権利につき代位弁済者において法定代位するに際し、予め、その代位を附記する必要はないものである。

(ろ) 又、元来、未だ、担保物権が有効に存在する間に、目的たる不動産を買受ける第三取得者は、債権者に対しいわゆる被担保債権の存否、或は金額等を問合せ、その際、目的物件に代位の附記登記が経由されていても、或は、いなくても、担保物権、すなわち、抵当権等が実行され得ることを、充分に、認識、覚悟のうえ、その所有権を取得するのが通常であり、したがつて、抵当権等の実行が債権者の手によりなされようが、或は、保証人の手によりなされようが、別段に差異はなく、保証人の手によりなされることが不測の損害であるとは云い得ないものであるところ、一方、保証人はいわゆる法定代位によつて、当然に、債権者の有する権利を行うことができるものと信じているのであるから、かかる立場の保証人に、いかなる第三取得者に対する関係においても、代位弁済をする以前に、予め、その代位を附記登記をすることを要求し、ひいては、附記登記の経由のなかつたことを理由に、その代位権を喪失せしめることは、保証人にとつて、甚だ、酷な筋合である。以上のしだいであるが、これらを、彼此、要すれば、保証人が、予め、附記登記を経由しないことにより、債権者に代位をなし得ざるに至るのは、代位弁済以後に生じた目的たる不動産の第三取得者に限定され、代位弁済以前の第三取得者には、その代位の効果がおよぶものと解すべきであるから、したがつて、本件宅地並びに本件建物の、山下の代位弁済以前の第三取得者である原告の主張の理由がないものであることは、この見地からしても明白である。

(三)  よつて、原告の被告銀行に対する請求も亦、失当として棄却せらるべきものである。

証拠関係(省略)

理由

(一)  橋本が昭和三十五年十月四日被告銀行とのあいだに、同三十五年六月二十一日附相互掛金弁済契約にもとづく、貸金債務金七十二万七千二百円をいわゆる被担保債権として、これが支払確保のため、その所有にかかる本件宅地並びに本件建物につき抵当権を設定すると共に、代物弁済の予約を取結び、なおこれに伴い、前同日、被告銀行を権利者として、本件宅地については本件(七)の抵当権設定登記並びに本件(八)の保全登記、本件建物については本件(九)の抵当権設定登記並びに本件(十)の保全仮登記が、それぞれ、経由されたことは当事者間に争いがなく、しかして、成立に争いがない甲第一号証の一、二、官署作成部分につき成立に争いがなく、その余については原告本人訊問の結果により成立が認められる甲第二号証に原告本人訊問の結果を総合すると、原告が昭和三十六年一月二十三日橋本から、本件宅地並びに本件建物を、前叙の抵当権等附着のまま買受け、前同日、その旨の所有権移転登記を経由したこと(右事実のうち、売買に関する事実は原告と被告山下とのあいだに、又、本件宅地並びに本件建物につき、その旨の所有権移転登記が経由されたことは当事者間に、それぞれ、争いがない)が認められ、なお、更に、山下が橋本の被告銀行に対する前叙の貸金債務につき連帯保証人となつていたこと及び山下が昭和三十六年一月三十一日連帯保証人として被告銀行に対し、前叙の貸金債務全額につき弁済を完了し、その結果として、山下を権利者として、同三十六年一月三十一日本件宅地については本件(二)の抵当権移転登記並びに本件(三)の仮登記移転登記、本件建物については本件(五)の抵当権移転登記並びに本件(六)の仮登記移転登記が、それぞれ、経由されたことも亦、当事者間に争いがないところである。

(二)  本件における基礎的事実関係は、略々、右に述べたところのように認められるのであるが、そこで、進んで、かかる事実関係のもとにおいて、原告の被告等に対する本訴請求が許容さるべきものであるか否かにつき、以下、検討する。

(い)  民法第五百条には弁済をなすにつき正当の利益を有する者は弁済によつて当然債権者に代位すると規定してあるが、その正当の利益を有する者という範疇には、山下のように、橋本のため連帯保証人の立場にあつたものも、元来、保証人は自分の負担する保証債務を弁済するものではあるけれども、実質的には他人の債務を弁済するものであることよりすれば、代位の利益を与えらるべきものであることを重視するときは、包含されると解せられるところであり、又、同法第五百一条本文には、債権者に代位したる者は自己の権利にもとづき求償をなすことを得べき範囲内において債権の効力及び担保としてその債権者が有せし一切の権利を行うことを得と規定してあるが、その一切の権利の中には、代物弁済の予約上の権利も包含されるものであつて、特に、これを除外すべき理由はないと解せられるところである。

(ろ)  ところで、本件の場合、成立に争いがない乙第四、五号証を総合すると、右に述べたように、昭和三十六年一月三十日連帯保証人として被告銀行に対し、橋本の前叙の貸金債務全額につき弁済を完了し、その結果として、同三十六年一月三十一日本件宅地については本件(三)の仮登記移転登記、本件建物については本件(六)の仮登記移転登記の経由を受けていた山下は、その後、橋本を相手どり、神戸地方裁判所尼崎支部に、被告銀行が有していた代物弁済の予約完結権を行使したことを請求の原因として、本件宅地並びに本件建物につき所有権移転本登記手続をすることと、これらの明渡を求める訴を提起し(同庁昭和三十六年(ワ)第四六号所有権移転登記手続請求事件)、審理の結果、山下がその係属中の同三十六年七月二十一日死亡したところから、養女として相続により権利義務を承継し、その承継人となつた被告において、同三十六年十月二十六日勝訴の判決を得、その判決が確定していること(右事実のうち、山下の死亡、これに伴う相続に関する事実は原告と被告山下とのあいだに争いがない)が認められるのであるところ、この点について、原告は、元来、代位弁済による附記については、不動産の第三取得者が、未だ、その旨の所有権取得登記を経由しない以前に予め登記手続を完了すべきことを必要とするものであつて、第三取得者において、保証人が附記の登記手続を完了する以前に、その旨の所有権取得登記を経由した場合には、債権者が抵当権を有していた場合でも、代物弁済の予約上の権利を有していた場合であつても、代位弁済者としては、最早、かかる附記の登記を経由し得ないものであるという趣旨の主張をしているわけであるが、民法第五百一条但書第一号には、成程、保証人は予め先取特権、不動産質権又は抵当権の登記にその代位を附記したるに非ざれば、その先取特権、不動産質権又は抵当権の目的たる不動産の第三取得者に対して債権者に代位せずと規定してあるにはしても、その中に代物弁済の予約上の権利を包含していないものであることは明白であり、なお、同法条の法意を類推し、代物弁済の予約上の権利についてまでも、これを適用すべき特段の理由はないと思料されるので、したがつて、原告の右主張には俄かに、同調し得ないという結論に到達するものであると考えられ、しかして、更に、この事柄に、被告が前叙の勝訴判決、詳説すると、本件(八)の保全仮登記並びに本件(十)の保全仮登記にもとづき本件宅地並びに本件建物について所有権移転登記を経由するに至つた場合には、その所有権取得は、前叙の各仮登記移転登記の順位により保全される結果として、原告の橋本からの本件宅地並びに本件建物についての所有権移転登記は、後順位の時機になされたものであることに帰するし、しかも、元来、不動産につき所有権移転請求権保全仮登記が経由されているときは、その仮登記権利者において、後日、本登記をなすことを予期しなければならないのであるから、第三者はその仮登記権利者が本登記を経由するにつき妨げとなるような行為をなすことはできず、若し、そのような行為をなしたときは仮登記権利者に対してはその効力を対抗することができないものであると認められることが一般であるから、要すれば、被告が前叙の各仮登記移転登記にもとづき本件宅地並びに本件建物の所有権移転本登記手続の申請をなすにあたつては、原告としては、不動産登記法第百五条により準用される同法第百四十六条にいわゆる登記上利害の関係を有する第三者の範疇に属するものとして、却つて、いわば、逆に、これを承諾すべき義務があると解せられること等を、彼此、併せて推論していくときは、原告の被告等に対する、昭和三十六年一月二十三日附売買により本件宅地並びに本件建物の所有権を取得し、その旨の所有権移転登記を経由したことと相まち、これを完全に被告等に対抗し得るものであることを前提とする本訴請求は、この点からして、既に、換言すると、原告主張のその余の仔細な点の判断をなすまでもなく、いずれも、失当として棄却すべきものであるという結論に到達すると考えられるところである。

(三)  よつて、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条、第九十五条を適用して主文のとおり判決する。

(別紙) 目録

(一) 尼崎市東大物町二丁目五番の一

宅地 十七坪六合

(二) 順位番号十二番付記一号(乙区)

十二坪抵当権移転

昭和三十六年一月三十一日受付第一七九八号

(三) 順位番号十七番付記三号(甲区)

十七番仮登記移転

昭和三十六年一月三十一日受付第一七九九号

(四) 尼崎市東大物町二丁目五番の一地上

家屋番号同市十二番

木造瓦葺平家建居宅一棟

建坪 十四坪四合

(五) 順位番号五番付記一号(乙区)

五番抵当権移転

昭和三十六年一月三十一日受付第一七九八号

(六) 順位番号七番付記三号(甲区)

七番仮登記移転

昭和三十六年一月三十一日受付第一七九九号

(七) 順位番号十二番付一(乙区)

抵当権設定

昭和三十五年十月四日受付第二〇八三四号

(八) 順位番号十七番付一(甲区)

所有権移転請求権保全仮登記

昭和三十五年十月四日受付第二〇八三五号

(九) 順位番号五番付一(乙区)

抵当権設定

昭和三十五年十月四日受付第二〇八三四号

(十) 順位番号七番付一(甲区)

所有権移転請求権保全仮登記

昭和三十五年十月四日受付第二〇八三五号

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